お民の度胸
七五朗夫婦が差し向かいで寝酒を飲んでいる。
ねえ七さん、石さんが帰ったのは昨夜の今頃だったね。
泊まっていきなと言ってもきかねえで帰ったが、間違いがないといいな。
そこへ誰かが戸を叩く。
開けてみると石松、可哀想に血だらけ。
どうした、石、誰にやられた?
久六の子分と都鳥に騙し討ちにあった。
石松を奥の押入れに隠す七五朗夫婦。
七五朗、お民を座らせ、お前とは夫婦の縁を切る。新屋のお爺さんのところへ帰れ。
何言ってんだい、あたしゃお前さんと死ぬ覚悟はできてるよ。
どんどんと誰かが戸を叩く。
開けてみると十本の長脇差が雪崩を打って飛び込んできた。
なんだなんだこいつら、夜遅くなって長いものの鞘を払って人の家へ飛び込んできやがって。都鳥一家七人は馴染みだから許してやるが、あとの三人は渡世人だろう。何か用か。
七、相変わらずいい元気だな。頼みがあってやってきた。隠し事をすると命はねえぞ、石松が来たろう?
うん、石松なら確かに来たよ。
意気地の無い野郎だ、簡単に吐きやがった。そうか、石松はどこにいる?
え?お前の家に行ったんじゃねえのか?百両の貸しがあるから取りに行くって止めても聞かないで出てったぜ。お前たち、石松に百両の借りがあるんだってな。返してないなら俺が代わりにもらっておこうか?だから昨日の昼には来たが、今日はまだ来ないやい。
そこへお民が口を出す。
疑ってるなら家探しをしなよ。
それを見た都鳥吉兵衛が
待て待て、お民は顔色を変えずに笑ってやがる。ここに石松はいない。いないところを家探しして、七五朗に詫び状を書けと言われたら面倒だ。外を探すぞ。
するとお民が少し待ってくださいと、表へ出て空をながめて、
月の出ているいいお天気に、あなた方十人は、どうしてびっしょり濡れているんですか?