石松と見受山鎌太郎
草津追分、見受山の貸元鎌太郎の評判がいい。
どのくらいの貫禄のある人か、量ってみようと石松が一宿一飯のお世話になる。
なるほど、五年といわず三年で、この人は立派な貸元になるよ。
明日の朝、お別れしますと、石松が切り出す。
七年前にお蝶さんが亡くなったねえと鎌太郎。
あの頃まだあっしは素奴で急廻文にもれていて、香典をやってない。
今年、清水に大法事があると聞いた。
香典じゃない、香典の真似事がしたいから、持っていってくれないか。
石松、一度は断るが押し切られる。
香典を取りに次の居間へ行く鎌太郎の後姿を見ながら、
香典、いくら出すんだ?
香典十両に、道中石松さんの小遣い三両、十三両ぽっちだったら笑ってやらあ。
だけど人間がしっかりしてるから、二十両と小遣い五両、二十五両で普通だが、まぁ十三両だろうな。
予想に反して鎌太郎が出したのは、香典百両、道中石松さんの小遣いに三十両。
驚いた石松。
金をいただいて、翌朝見受山に別れを告げた。
追分を出て遠州の中之町。
三人のやくざ者が石松を見つけて、お〜い、石松さんじゃねえか。
都鳥の三兄弟、しばらくでしたなぁ。
金毘羅様へ行った帰りがけに見受山鎌太郎さんのとこで遊んでたら、香典だってんで百三十両もらって今帰りがけだよ。
大したもんだなぁ。
石さん、あんたも遠州の生まれだ、俺の家で二、三日遊んでいってくれ。
そうかい、じゃあお前の家に世話になって、それから七兄ぃのところへ行こう。