次朗長の貫禄(清水次朗長伝)

次朗長の貫禄

「石松!下がってろ!」
次朗長が一喝すると、親分すみませんと石松が下がる。
それを見た武蔵屋周太郎、
清水、久六に畜生呼ばわりされてなぜ黙っている?手前畜生と呼ばれる覚えがあるのか?
答える次朗長、向こうにはあるが俺には無い。
それはこういう訳。

人から預かった二百両を博奕で取られて青くなって帰ろうとする久六に、博奕はよしねえ、相撲をやめたら堅気になりねえと三百両やった。
有り難うございます。これに懲りて博奕は打ちません。お金はいただきます。
金をもらって下がった奴が博奕打ちになった。

意見をした者が博奕打ちになったんだから、そういう人とは付き合わないが、ある日久六から手紙が来た。
何だろうと思って開いてみたら、一之宮左ヱ門と間違い(喧嘩)をする。
敵いそうもないから、清水の兄弟分、身内を連れて来てくれ。

意見はしたが兄弟分になった覚えはない。
あんまり無礼なんで破いて燃やしてしまった。

三日たったら「久六より次朗長兄弟へ」と手紙が来た。
中を見ないで破いて燃やした。
三本目が来たから破いて燃やした。
四本目が来るかと思ったら久六が来た。

手前ぐらい薄情な奴は無い。
喧嘩に負けてきまりが悪いから尾張にいられない。
手前の家に世話になる。
兄弟分だから世話になってもいいだろう。

ひっぱたいてやろうと思ったが、馬鹿かまってもしょうがない。
気の毒だったなぁ、まぁ遊んでいけよと言ったら、当たり前だって遊んでいやがった。

六日目になると、上州へ行くから百両貸せ。兄弟分だから百両くらい貸してもいいだろうと言いやがる。
癪に障ったから前にあった湯呑みで野郎の頭を殴った。
今、野郎の頭にある大きな疵は、わっしがつけたんで。
やりゃあがったなって立ち上がろうとしたから、ポンと胸板を突いたら尻餅をついた。それから大勢の子分に無茶苦茶に殴られた。殴られても痛くねえっていうから、みんなで担いで巴川へ放り込もうとした。
水を見せたらこの野郎、声張り上げて泣き出して、泳げないから水は勘弁してくれ。

二度と清水に来るなってポーンと突き出した。
それから尾張へ帰って妹のおかげで出世をした。
そういうわけでわたくしを畜生と言ったんでしょう。

この話を久六の子分、熊五郎が縁の下に隠れて聞いていた。

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