久六の悪事
久六の元へ戻ってお蝶の葬儀の話をする熊五郎。
お前さん、親分だ貸元だって大きな面してるけど、元は相撲取りで弱かったってね。次朗長には随分世話になったんだってね。それなのに去年勝五郎が来た時、次朗長の恩知らずだの犬畜生だのよく言えたね。あん時、表に石松がいたんだよ。お前さん、もうすぐ首がなくなるよ。石松が殺しに来るよ。お前さんの子分になってると命が危ねえ。どうも永らくお世話になりました。
こうなったのも深見村の長兵ヱが次朗長を匿(かくま)ったからだ。
逆恨みをした久六は、亀崎の代官屋敷へやってきた。
兇状持ちの清水港の次朗長が尾張に来ております。わたくしも博奕打ちですから、博奕打ちを召し捕るのは嫌だから尾張から出ていけと使いをやりました。すると、久六は代官の威光を着て生意気な野郎だといって、子分が五、六人わたくしの家に来て障子唐紙をみんな破いていってしまいました。次朗長を召し捕ろうと思います
そうか、拙者も手を貸すから、すぐ召し捕れ。
長兵ヱが家に帰ると、家の周りをぐるぐる廻っている目つきの悪い奴らが七、八人。
代官の手下だと気付いた長兵ヱは、次朗長を裏口から逃がし、自分はその罪で捕まり、水責めになって死んでしまった。