石松金毘羅代参
文久二年の三月半ば、花見時。
次朗長が石松に、讃岐の金毘羅様まで使いを頼む。
代官と久六を斬った刀をお山に納めに行くのだ。
すぐに行ってきますという石松に、待て待て、発つのは明日でいい。
それから次朗長が頭を下げて頼むのは、お前は酒癖が悪いから、旅の間は一滴の酒も飲んでくれるな。
わかりました。つとまらねえから断ります。
俺がこんなに頼んでもいやか?
次朗長には六百何十人子分がいるが、俺の言うことをいやだと言うのはお前一人だ。
生かしておいてためにならねえ。覚悟しろ。
わっしゃあ、あんたに惚れて子分になったんだ。
さっ、斬っておくんねえ。
強情張り同士が喧嘩して面白いってんで、隣の部屋から大政小政が隠れて見てるが、止め手がねえんで困ってるだろうと大政が仲介に入る。
石松を呼びつけて説教をする。
嘘も方便て言葉を知らねえか。
こっそり飲んだっていいんだよ
翌日清水を発って、真っ直ぐ金毘羅様へ。
無事に刀を納めて、四国を出て大阪見物。
大阪の八軒屋から伏見へ渡す渡し舟に乗り込んだ。
畳一畳ばかり買いきって、大阪本町橋の名物押し鮨を食べながら一杯飲む。
乗合衆が大声で喋る話を面白く聞いていた。