石松と七五朗
都鳥三兄弟から釣竿と餌箱とビクを借りて、鮒釣りをしようと用水掘りへ来た石松。
柳の木の下が日陰になっていいってんで、夜中から場所取りをして座っている若い男を拳固でおどしてどかしてしまう。
まあまあ、そう怒るなって。俺は釣りは初めてだが、やさしいようで難しいんだってなあ。
やってみるが、こんな気の短い奴に釣りができるわけがない。
釣れないことに腹をたて、釣り道具を堀に叩きこんだかと思うと、大きな石を用水掘りに投げ込んだ。
周りはいい迷惑。
そこから歩いて小松村の閻魔堂の前。
誰かに呼びとめられて、振り向くと小松村七五朗。
おっ、七兄ィ、貧乏暇なしですっかり無沙汰した。すまねえ。
石、無沙汰してすまねえってこと知ってるか?お前が隣村の都鳥の家へ来たって聞いたから、明日あたりは家へ来る。ご馳走してやろうと酒、肴をたくさん買って帰った。ところがお前は来ねえ。魚は腐る、嬶(かかあ)は怒る。もうお前とは付き合わねえと思ったが、顔を見るとそうはいかねえ。立派になったなあ。ところでなんで俺のところへ来なかった?
実は都鳥に、預かった百両を貸した。二十日に返すというから返してもらったら行こうと思っていたんだ。
二十日になって金が返ると思うか?恥を知ってる奴なら返すが、あいつ等恥じを知らねえぞ。
えっ?しまった!
石、俺を兄貴と思うなら、俺の言うことを聞け。俺の女房の縁家(えんか)に頼んで百両こさえるから、それを持って清水へ帰れ。親分に香典を渡してから、都鳥に貸しがあるから七兄ィ代わって取ってくれと俺に手紙を書け。お前じゃ取れないが俺なら取る。心配しねえで俺の家へ来い。