お蝶の焼香場
安政三年正月の元日、深見村長兵ヱの家で、手当ての甲斐も無くお蝶が亡くなった。
長兵ヱと次朗長の名で急廻文をまわすと、お蝶さんが姐さんが、俺も香典われも香典、莫大な香典が集まって立派な葬式が行われる。
その葬式の席。
次朗長の親類頭、伊勢の武蔵屋周太郎が長兵ヱの前へ坐って、
この度は有り難う存じました。お蔭で人も集まったが、わっしゃあ気にいらねえ。
来なくちゃならねえ奴が一人二人と言いたいが、恩義を知らなきゃ犬畜生、一匹二匹で結構だ。二匹来ないがどういうわけだ?
受けて石松が、皆さん聞いてくださいよと、久六の顛末を話す。
あの野郎、世話になった次朗長親分を畜生呼ばわりしやがった。
そこへ次朗長が前に出る。