悩みについての話 Part 7
大竹:話を元に戻しますけど、全ての悩みの相談者は、人との距離感が判らない?阿川:例えば、相談された先生との距離感も判らない?
加藤:もちろん判らない。例えば、悩みの最初の手紙にですね、「よぉ」って感じですからね。それで、東京に出てきました、と。だけど、今回は忙しいですから帰ります、と。次回来た時は研究室でゆっくり話しましょうという。ゆっくり話しましょうったって、忙しくて
大竹:距離感の判んない奴だなぁってことだよね
阿川:私も昔あった。テレビに出てる頃に、今度東京駅で待ち合わせよう、と。だけど30分前には僕のフィアンセが僕と会ってるから、君がきっと嫉妬するだろうから、早めには来ないように、という、全然知らない人から手紙がきた
加藤:あ、全然知らない人から。要するに、初めての人と接して初めての人に手紙を書くっていうことが悩みの手紙ってことがまず判んない。で、悩みの手紙の最大の特徴は量が多いってことです。もうね、昔で言う原稿用紙でね、二十枚も三十枚も書いてくる人がいる。最初だったらサラッといきますでしょ。
阿川:悩みを持ってるって人は、みんな、じゃあ、治らないってことですか?
大竹:いや、そうじゃないよ
阿川:距離感さえ掴めば、悩みがなくなるってこと
加藤:ただ、距離感を掴むってことは、大変なことなんです
阿川:どうすればいいんです?
加藤:悩みって、そう簡単に治らないんです。アドバイスひとつで治るなんて、そんな簡単なもんじゃないです。
阿川:ふむ
加藤:だから悩んでる人が来ても、僕なんか直接会って自分が治せないってこと判りますから
阿川:どうなさるんですか?
加藤:いや、もう会わないです。会って治るもんじゃないですから。悩んでる人は、また、会えば治るもんだと、自分の悩みをすごく簡単に考えてますから。で、会わないっていうとすごく冷たいようだけど、そうじゃなくて、人間が一旦悩んだ時には、それはものすごい、今までの人生のいろんな問題を抱え込んで悩んでるんですよ。
阿川:うんうん
加藤:ベラン・ウルフ(オーストリアの精神科医)って人が書いてますけど「悩みは昨日の出来事でない」って言ってるんですけど、つまり昨日起こったことで悩んでるんじゃなくて、今までの人生のずーっと積み重ねで、これ、悩んでるんですよと、いうことですよ。だから、あの人と上手くいかないのも、昨日起こった…
阿川:でも、とりあえず、
加藤:はい
阿川:始めの一歩みたいなことはないんですか?なんか方法として距離感を獲得する
加藤:ああ、だから阿川さんは
阿川:はい
加藤:心理的に健康だっていうんですよ。その質問
阿川:はい
加藤:僕はね、悩んでる人が今、先ほども言ったけど四十年間本書いてますから、もうホントに何通貰ったか判んないですよね
阿川:先生が悩んじゃう
加藤:その手紙の中で、一個も無い質問がそれなんです。
阿川:えっ?
加藤:今、阿川さんが言った質問。そのために今、今日、自分は何をしたらいいですか?って質問。私は今、今日、何をしたらいいでしょうか?って質問が一つも無い。
大竹:一番肝心な質問が無い。今まで悩んできて、先生の前に来た時に、悩みがあって、これを話した後、さて先生、今日から私は何をしたらいいでしょうかと、これが無い
加藤:人間関係を上手くやるにはどうしたらいいですか?とかね
阿川:千キログラムの重さの悩みの、百グラムだけを取っていきたいんですけれども、っていう話ができないのかな
加藤:絶対に無いです。これはホントに無いです。悩みの手紙をもう、腐るほど読んでも無いです。もうね、最近は悩みの手紙を見ただけで、この人はどのぐらいの悩みの深刻度か判ります。読まなくても。ちゃんと外側に表れますから。
大竹:例えば紙の分厚さ
加藤:もう、初めての人にですね
大竹:人に向かってこれだけの
加藤:うん
大竹:ものを書くと
加藤:十枚や二十枚じゃ
大竹:その他に、表紙から判るものとか
加藤:例えば、住所が性格に書かれてないとかね、「東京都 早稲田大学 加藤諦三」とかね、住所も無い。それから自分の住所の書き方が斜めになってたりですね、表と裏の、その、同じ封筒の書き方でも、バランスってありますよね、これが非常に悪い
阿川:距離感が取れないってそういうところにも表れるんですか
加藤:もうバランスが悪いんです
大竹:封筒の、宛名書きのですか?
加藤:宛名書きも悪い
阿川:ものすごい隅っこに小さく書いてたり
加藤:そうそうそうそう隅っこに書いてたり
阿川:ありますね
大竹:オレも時々サイン、バランスが取れない時あるんですよ
阿川:(笑)大丈夫ですか?