希望についての話 Part 4
蒲田:さあ、希望学、始められて1年くらいという感じですが、実際に研究されてみて、この希望学の面白さ、そして重要性というのは、繰り返しでも結構なんですが、どういうことでしょうか?玄田:えっとですね、なんかみんな少し元気になればいいかなって。この希望学を読んでくださったある方がね、自分も希望の問題を考えてもいいんだって、感想をくださったんですよね。
蒲田:ほお、希望を考えてもいいんだと。
玄田:誰かが希望について正しい答えを持ってるわけじゃない。僕らだって持ってるわけじゃない。けど、自分の問題として考える、そんなきっかけが、この希望学でできればいいなって。だから、ラクレ、書いた時にも、学者さんが上のほうから教えてやるみたいな感じになっちゃいけないなって。
これは私だけじゃなくて、何人かのメンバーと一緒に書いたんですけど、みんなが自分自身の経験、挫折経験を含めて、それを書いてて、自分自身もそのメンバーの一人として、すごくいいなって。やっぱり自分自身の問題として、ある部分自分が正直になってこの問題を考えていく、それをみんなで考えていく、そんなきっかけになりつつあるので、希望学って面白いなって思うし、学問ってみんなで作っていくものだから、こういうきっかけに希望学がなればいいなってことを思います。
蒲田:何か高尚なものがありというこではなくて、ホントに等身大の自分の問題なんだという風に置き換えられるわけですね。ということは、この、希望学という本、どういった方に読んでもらいたいと。
玄田:やっぱりね、希望が持てないっていう人にね、読んでほしいと思うんですよね。持てないっていう人は、持ちたいって思うことも多いと思うし、じゃあどうすれば持てるのかっていうことをね、考えるヒントがこの本には、ちょっと自惚れかもしれませんけど、色々詰まってると思うんですよ。さっきの挫折の話とかもそうだし、希望って叶わなくてもいいんだって、叶わないことから見つかることもあるんだって、ある意味じゃ当たり前のことだと思うんです。学問てね、当たり前のことを、ちゃんと、当たり前だって示すことも大事だって思ってるんです。ある人に、「お前のやってることは、当たり前の事しか書いてないな」って言われたことがあって、「自分たちは漠然としか思ってないから、自分たちの思ってることが、データからちゃんと示されるんだ、事実なんだって解ったのは、ちょっとほっとしたよ」って言われたことがあって、すごく嬉しかったことがあるんですね。希望学も、みんなの思いに繋がるっていうか、希望が持てない自分はいいんだろうかとか、持ちたいけど、どうすれば持てるんだろうかって思う人とか、そういう若い人の親御さんとか家族とか、部下にそういう人がいる人にも、どうやったらヒントが与えられるんだろうかって、いろんな人に読んでほしいなって、ちょっと贅沢ですけど。
蒲田:ホントに今回、お話いただいた内容、本の中でもより詳しくご紹介されてますので、是非お手にとってみて戴きたいと思います。そして、希望学の今後ですね、研究課題というのはどのへんになってきますかね?
玄田:はい。これからは、実際に色んな地域に出かけていって、足で調査します。僕は、よく学生にも言うんですけど、論文は手で書くんじゃない。論文は足で書く。自分で足を運んで、実際に見て、聞いて、感じて、そこでやっていく。
今度岩手県の釜石市にお邪魔するんですね。釜石って我々に言わせるとやっぱりラグビーですよね。昔は鉄鋼で凄く有名な、地方の希望の星みたいな。今はラグビーは残念ながらそんなに強くない。やってるんですけど。産業だって、一時の大きなものは無い。人口も半分くらいになった。ではその地域に全く希望は無いかというと、そんなことはない。どういう苦しい状況でも、その中で色々試行錯誤しながら希望を持っている人たちがたくさんいる。それは一体どういうことなのかっていうことを、実際に足を運んで、地を這うような調査をして、より、皆さんの実感に合うようなことをしていきたいなと思ってるし、もうひとつは最初に言った国際規格。自分たちの事を知るためには、外国との比較とか、違う人と、良い意味で、比べてみるってことが大事で、希望の問題っていうのは、日本の問題であると同時に、世界の問題でもあるから、人と繋がることによって、こういう問題を共有していきたい名と思ってます。
蒲田:さて、先生のホームページ、「玄田ラヂオ(http://www.genda-radio.com/)」。ラジオ、お好きなんですか?
玄田:大好き(笑)。前にある人から、ラジオっていうのはテレビと違って惑うメディアだっていわれて
蒲田:惑う?
玄田:惑う、つまり、悩む。悩んでも良い。テレビってなんとなくすぐこう、答えを出さなきゃいけない、ラジオって聴いてる人と喋ってる人が、一緒に考えることができる、そんな時間が流れるじゃないですか。とても好きなんですよね。だからすごく、こういうのいいなって思って。
蒲田:「玄田ラヂオ」。じゃあ、生の、惑ってる声も聴けるわけですね(笑)。
玄田:もう惑いっぱなしです。
蒲田:最後になりますが、恒例の質問です。これまでで、玄田さんの、一番思い出に残る先生というのは、どんな方でしょうか?
玄田:あの、私の大学、大学院の時の恩師なんです。8年前に亡くなったんですけど、ある時に、私が何気なく、ちょっと問題を起こした人がいて、「これはやっぱりこの人の人格の問題ですよね」って、軽く言ったことがあるんですね。そうしたら先生は、非常に優しい先生だったんですけど、表情がちょっと変わってね、「玄田君、人間には格は無いんですよ」って言われたことがあったんですよね。
つまり、何か起こすと、さっきのニートの問題もそうですけど、あいつはそもそもダメな奴なんだとかね、格が低いんだって、すぐに言いがちじゃないですか。
蒲田:人格の問題だ。
玄田:うん。そうじゃなくて、そういう風に見えるものも、本人の人格の問題じゃなくて、そういう人を生み出してしまう社会の仕組みとか、経済の仕組みに目をむけていかなくちゃいけないんだってことを教えてくれたのがその先生、石川先生っていうんですけど。いつもそれは、どこか心の中にあるような気がします。
蒲田:人には格は、元々は無いんだと。いい言葉ですね。なるほど。
『希望学』
玄田有史
出版社:中央公論新社
発行:2006年4月
ISBN:4121502116
価格:¥735 (本体¥700+税)